大阪府堺市の小児科・アレルギー科 いしいこどもクリニック

麻疹

疫 学
ヒトからヒトへの空気感染(飛沫核感染)の他に、さらに、飛沫感染、接触感染など様々な感染経路で感染する。我が国では通常春から夏にかけて流行する。過去1984 年に大きな全国流行があり、1991年にも流行があったがやや小さく、その後大きな全国流行はなかった。しかし、毎年地域的な流行が反復している。感染症発生動向調査では、国内約3,000の小児科定点から年間1~3万例の報告があり、実際にはこの10倍以上の患者が発生していると考えられる。この中で2歳以下の罹患が約50%を占めており、罹患者の95%以上が予防接種未接種である。近年の推移を見ると、小児科定点から報告された麻疹患者数は、1999 (平成11)年には過去最低となっていたが、2001(平成13)年は過去10 年間では1993 (平成5)年に次いで二番目に大きい流行であった。また、平成11 年度から、全国約500 の基幹病院定点より成人麻疹(18歳以上)の患者発生が報告されているが、2001年は過去3年間で最も多い報告数となっている。これらの症例の多くは入院を要するような比較的重症例であると考えられる。
病原体
原因ウイルスである麻疹ウイルスはParamyxovirus 科Morbillivirus 属に属し、直径100~250nmのエンベロープを有する一本鎖RNA ウイルスである。A からH のcrade に分類され、genotype は22種類報告されている。感染後はリンパ節、脾臓、胸腺など全身のリンパ組織を中心に増殖する。
臨床症状
<前駆期(カタル期)>
感染後に潜伏期10~12日を経て発症する。38 ℃前後の発熱が2~4日間続き、倦怠感があり、不機嫌となり、上気道炎症状(咳嗽、鼻漏、くしゃみ)と結膜炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)が現れ、次第に増強する。
乳幼児では消化器症状として下痢、腹痛を伴うことが多い。発疹出現の1~2 日前頃に頬粘膜の臼歯対面に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm 径の白色小斑点(コプリック斑)が出現する。コプリック斑は診断的価値があるが、発疹出現後2日目の終わりまでに急速に消失する。また、口腔粘膜は発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、しばしば溢血斑を伴うこともある。
<発疹期>
カタル期での発熱が1 ℃程度下降した後、半日くらいのうちに再び高熱(多くは39.5 ℃以上)が出るとともに(2峰性発熱)、特有の発疹が耳後部、頚部、前額部より出現し、翌日には顔面、体幹部、上腕におよび、2 日後には四肢末端にまでおよぶ。発疹が全身に広がるまで、発熱(39.5 ℃以上)が3~4日間続く。
<回復期>
発疹出現後3~4日間続いた発熱も回復期に入ると解熱し、全身状態、活力が改善してくる。発疹は退色し、色素沈着がしばらく残り、僅かの糠様落屑がある。カタル症状も次第に軽快する。合併症のないかぎり7~10 日後には回復する。患者の気道からのウイルス分離は、前駆期(カタル期)の発熱時に始まり、第5 ~6 発疹日以後(発疹の色素沈着以後)は検出されない。この間に感染力をもつことになるが、カタル期が最も強い。
<合併症>
1)肺炎:麻疹の二大死因は肺炎と脳炎であり、注意を要する。
2)中耳炎:麻疹患者の約5 ~15%にみられる最も多い合併症の一つである。細菌の二次感染により生じる。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要である。乳様突起炎を合併することがある。
3)クループ症候群:喉頭炎および喉頭気管支炎は合併症として多い。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による。吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理を要する。
4)心筋炎:心筋炎、心外膜炎をときに合併することがある。麻疹の経過中半数以上に、一過性の非特異的な心電図異常が見られるとされるが、重大な結果になることは稀である。
5)中枢神経系合併症:1,000例に0.5~1例の割合で脳炎を合併する。発疹出現後2~6日頃に発症することが多い。髄液所見としては、単核球優位の中等度細胞増多を認め、蛋白レベルの中等度上昇、糖レベルは正常かやや増加する。麻疹の重症度と脳炎発症には相関はない。患者の約60%は完全に回復するが、20~40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、致死率は約15%である。
6)亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis :SSPE):麻疹ウイルスに感染後、特に学童期に発症することのある中枢神経疾患である。知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示す。発症から平均6~9カ月で死の転帰をとる、進行性の予後不良疾患である。発生頻度は、麻疹罹患者10万例に1人、麻疹ワクチン接種者100万人に1人である。
病原診断
ウイルス分離、麻疹特異的IgM 抗体価の測定、急性期と回復期のペア血清での麻疹IgG 抗体の有意な上昇をもって診断可能である。従来日本では臨床症状のみで診断することが多かったが、今後は実験室診断が必要であると考える。
治療・予防
特異的治療法はなく、対症療法が中心となるが、中耳炎、肺炎など細菌性の合併症を起こした場合には抗菌薬の投与が必要となる。それ故に、ワクチンによる予防が最も重要である。
母体由来の麻疹特異IgG抗体があると、接種した麻疹ワクチンウイルスの増殖が十分でないため、母体由来の抗体がほぼ消失したと考えられる生後1歳以降の児に接種を行う国が多い。我が国における現行の予防接種法では、生後12カ月~90カ月未満を接種年齢としているが、麻疹ワクチン接種は、疾患に罹患した場合の重症度、感染力の強さから考え、接種年齢に達した後なるべく速やかに、少なくとも生後12~15カ月に接種することが望ましい。例えば、誕生日との関係でポリオの集団接種の時期と重複した場合は、麻疹ワクチンを優先するのが望ましいと考えられる。
ワクチンによる免疫獲得率は95%以上と報告されており、有効性は明らかである。接種後の反応としては発熱が約20~30%、発疹は約10%に認められる。いずれも軽症であり、ほとんどは自然に消失する。 ワクチンアレルギーの原因となったゼラチンに関しては、ゼラチン・フリーや低アレルゲン性ゼラチンを採用するなどで改善された。ごく稀に(100~150 万接種に1例程度)脳炎を伴うことが報告されているが、麻疹に罹患したときの脳炎の発症率に比べると遙かに低い。
感染症法における取り扱い
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの
  1. 全身の発しん(回復期には色素沈着を伴う
  2. 38.5 ℃以上の発熱
  3. 咳嗽、鼻汁、結膜充血などのカタル症状
なお、コプリック斑の出現は診断のための有力な所見となる
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの。
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